カウンセリングって効くの?

臨床心理士・公認心理師の澤地です。

今回はカウンセリングの効果についてお話ししたいと思います。


「カウンセリングって本当に役に立つの?」
「カウンセリングの効果ってどの程度なの?」
「カウンセリングで症状が悪化することはないの?」
これらは、カウンセリングの有効性について誰もが抱く、素朴で切実な疑問ではないでしょうか。


こうした問いに対して、カウンセラーが「もちろん、カウンセリングはとても役に立ちますよ」と答えるだけでは、情報として説得力がありませんよね。なぜなら、その効果を裏づける具体的なエビデンスを示すことによってはじめて、信頼性の高い情報になると考えられるからです。


そこで、カウンセリングの技法の一つである認知療法(認知行動療法)の効果を実証した研究を一つご紹介します。その研究論文は、『中度から重度のうつに対する治療としての認知療法と薬物療法との効果の比較』と題され、2005年、アメリカの精神医学専門誌『Archives of General Psychiatry』で発表されました。

下記に研究の概要を記します。


目的:うつ病患者に対する薬物療法、認知療法、プラセボの治療効果を比較検証する。

対象:中度から重度のうつ病と診断された、1870歳(男女比:46)の患者240名。

場所:ペンシルバニア大学とヴァンダービルト大学

設定:患者を、①抗うつ薬で治療するグループ(120名)、②認知療法を実施するグループ(60名)、③偽薬を投与されるプラセボグループ(60名)にランダムに振り分け。

治療期間:薬物療法グループと認知療法グループが16週間、プラセボグループが8週間。

比較のための測定尺度HDRS(ハミルトンうつ病評価尺度)。


次に結果です。

治療開始から8週間の時点で、治療反応率は薬物療法グループが50%、認知療法グループが43%、プラセボグループが25%でした。つまり、8週間の時点で、認知療法は薬物療法と同様に、うつ病症状の改善率が高かったことが分かったのです。
 

さらに、16週目の治療反応率は、認知療法も薬物療法も58%という同じ結果になりました。

ただし、うつ病評価尺度の得点が正常範囲内(7点以下)へと移行した寛解率は、薬物療法グループが46%、認知療法グループは40%という結果でした。しかし、論文の著者たちは、こうした寛解率の違いは、認知療法を行ったカウンセラーの経験の差によるものだと考察しています。そして、認知療法を熟知したカウンセラーであれば、軽度だけでなく、重度のうつ病患者対しても、薬物療法同様の効果が期待できると結論づけています。

<治療開始16週目の治療反応率と寛解率>
カウンセリング4-1

 









認知行動療法に関しては、欧米で多くの治療効果研究が発表されていますが、日本での研究については、例えば、東京大学総合文化研究科、丹野義彦教授のHPにある『認知行動療法への3つの誤解 ―エビデンスを上げて反論する―』等で知ることができます。


また、認知行動療法以外の技法も含む、カウンセリング全体の効果研究に関しては、『エビデンスにもとづくカウンセリング効果の研究-クライアントにとって何が最も役に立つのか』(ミック・クーパー著、岩崎学術出版)で、さまざまな研究知見が紹介されています。
 

ちなみに、著者は重要な研究知見のまとめとして、「総じて心理的セラピーは、人々の精神的健康と福祉に対して肯定的な効果をもつという明白なエビデンスが存在する」「カウンセリングやサイコセラピーを受ける10人中8人近くが、受けない人の平均よりも大きく改善する」と述べています。

 


さて、ここまで読まれて、「今飲んでいる薬はすぐにやめてカウンセリングに切り替えたい」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、早合点は禁物です。
 

このブログの主旨は、一般に考えられている以上にカウンセリングには実質的な効果があるということをお伝えすることであり、カウンセリングが薬物療法に取って代わると主張しているわけではありません。

例えば、2016年に改訂された「日本うつ病学会治療ガイドライン」では、中等症例以上のうつ病では、薬物療法が第一推奨治療となっています。
 

いずれにしても、最も大切なことは、治療者側が患者様に対し、それぞれの治療法のメリット、デメリットを呈示し、患者様が「安心・満足・そして納得する」治療方針を共に決定していくことであると考えています。

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 1)DeRubeis RJ, Hollon SD, Amsterdam JD, et al. Cognitive Therapy vs Medications in the Treatment of Moderate to Severe Depression. Arc Gen Psychiatry, 2005; 62: 409-416.

 下記サイトにて原文のフルテキストを読むことができます。

https://www.researchgate.net/publication/7927686_Cognitive_Therapy_vs_Medications_in_the_Treatment_of_Moderate_to_Severe_Depression

 また、この論文の日本語による解説を、『精神科医療情報総合サイト e-らぽ~る』で読むことができます。https://www.e-rapport.jp/ebm/effect02/04.html

 2)質問の項目は、「抑うつ気分」「罪責感」「自殺」等、17項目で、評価の基準は07点=正常、8-13点=軽症、14-18点=中等、19-22点=重症、23点以上=最重症となっています。

 3)症状が50%以上軽減した患者数の割合。この研究では、研究開始時のHDRSの平均点数が23.4点であったため、得点が12点以下の患者数の割合を治療反応率とみなしています。

4) http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/tanno/

5)日本うつ病学会ホームページ『日本うつ病学会治療ガイドラインⅡ.大うつ病性障害』https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/mood_disorder/img/160731.pdf 

6)渡邊衡一郎『総説 精神科外来臨床における非薬物療法的アプローチの位置づけと期待―うつ病を例に―』総合病院精神医学、201325巻3号p.262-267.