子供の頃から本が大好きでした。

と言っても、
文学集を隅から隅まで読んだとか、
この作家の本なら何度も繰り返し読んだとか、
そんな熱狂的な読み手ではなかったと思います。

本に囲まれていれば、ワクワクする。
あれを読もうか、これを読もうか、
迷うことからして楽しい。
そんな子供でした。

今も、出かける時は
いつもバッグに本を入れていきます。
ないと落ち着きません。

職業と、自分の興味のど真ん中が
重なっているので、
専門分野の本を読んでいることが多いのですが、
少し行き詰まっているかも?と感じたら、
全く関係ない本を手に取ります。

すると、本が思いがけない言葉を
プレゼントしてくれることがあるのです。

「日日是好日」森下典子著
樹木希林さんが出演されている、最後の映画の原作です。

「雨の日は、雨を聴くこと」という章では、
ある滝のように雨が降る日の午後、
お茶のお稽古に臨んでいた時の体験が綴られています。

その中の一節が、私の心に沁み入るように響きました。
今日、もしかしたら私と似たような気分でいる貴方にも届きますように。 

==== 『日日是好日』より ====

こんなふうに一心に雨を聴いたことはなかった。
雨音の密林の奥深く、分け入っていくような気がした。
ドキドキする。
生々しくて、なんだか恐ろしい。
だけど、もっと先へ分け入りたくなる。

<中略>

突如、だだっ広い場所に、私はいた。
ここはどこだろう?
私をさえぎるものは何もなかった。

手順を間違えてはならないという緊張も、
抱え込んだままで常に気にかかっている仕事も、
今日帰ったらしなければいけない用事も、何もなかった。

自分はもっと頑張らなくてはダメだという思いも、
他人から好かれ評価されなければ
自分は無価値なのではないかという不安も、
人に弱みを見られたくないという恐怖感も、
消えていた。

とてつもなく自由だった。
生暖かい大粒の雨を、
肌に痛いほど激しく浴びているかのようだ。
嬉しくて楽しくて、子供のように歓声を上げながら、
目も開けられないほどのどしゃぶりの雨に洗われているみたいだ。
こんな自由、今まで知らない。

 どこまで遠くへ行っても、そこは広がった自分の裾野だった。
 ずーっとここにいたし、どこかにいく必要もなかった。
 してはいけないことなど、何もない。
 しなければいけないことも、何もない。
 足りないものなど、何もない。
 私はただ、いるということだけで、百パーセントを満たしていた。

PB061460