臨床心理士の澤地です。

 
「すばらしい」「大好き」「気に入った」「最高」…。
で、どんなところが?と問われると、うまく言葉が続かない。
反対に、嫌いなことや気に入らないことについては、
ああだこうだ、すらすらと言葉が出てくるのに。

俳句など、ほとんど読んだことのない私が、
クスッと笑ったり、
目頭が熱くなって鼻の奥がツーンとしたり、
フーッと深いため息をついたりしながら、
一句一句、言葉の響きを口腔で味わいながら読んでいく
稀有な体験をした。

それは、かれこれ
1年近くも前のことになる。
以来、その句集との幸福な出会いを
どう人に伝えたらいいものやら考えあぐねていた。

中井久夫は、詩集などを献本されると、
いいと思った詩の部分や歌を三つ選んで書き写し、
著者に返事をするという。

確かにそれは著者に対する「よいお礼の仕方」だと思えるし、
「少なくとも見当違いの批評より」何層倍いいかわからない。**
だから、私も中井先生に倣って、
三つの句を選んで俳人に対するお礼に代えたい。

 
 

真つ先に暮れてゆくなり葉鶏頭

 

グールドの手袋のままピアノ弾く

 

  流星が梢に触れてさざ波す

 
髙橋亜紀彦句集『石の記憶』より

注釈)
 *  ヒルティ著「眠られぬ夜のために」に因む
** 中井久夫著「本棚一つの詩集たち」より引用

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